Destiny 〜長い時間の中で〜     1.dark clouds.









「無茶をするな!死ぬ気なのかっ」
「死ぬ気だと!?いまさら何を言ったって無駄だろう!」


危ない―――っ


「月!!」
「これくらい…それより王女は!?」


大丈夫。あの子は大丈夫―――


「無理…でしたか」


どうして、まだ!!―――


「これは運命なのですか母様…。私は…それを背負わねばならぬというのですか」
「王女」


慰めてあげて…お願い…彼女を――――…

さもないと、本当は繊細な心が、今にも崩れてしまいそうで―――。







暗闇の中を、閃光が迸る。
「ちぃっ」
「右からだ!!」
「な――っ」
かろうじて目線を向けられたものの身体は避けられず、体勢を崩し地へと叩きつけられる。
「星っ!」
「つまらない」
己の手へと、糸を操るように不可視の力で得物を引き戻すと、闇の中で女は言う。
やる気のなさを言葉に滲ませても、その手の内にひかる雷電光を収めようとはしない。
「所詮、守護者といっても半人前か」
その面は闇に隠されていても、下卑た笑いだけは明瞭に耳へと届く。
これは挑発だ―――
すぐに熱くなる仲間を止めようと、痛む背中を庇いつつ星は立ち上がろうとした。
だが。
「てめぇっ!!」
「月っいけません!」
月と呼ばれた男の手元に光が結集し剣を形作り、そのまま彼は女へ斬りかかった。
「そん…な」
思わず声をあげたのは月ではない。立ち上がろうとしたその姿勢のまま、星は呆然とその光景を見つめることしかできなかった。
 光が結集し形作られた剣は、女に傷一つつけることもなく、彼の手の内で霧散した。
―――徐々に、立ち込めていた雲が、晴れる
月の光が、女の姿を照らし出す。
「あなたたち個人に向けていったんじゃないのよ」
妖艶な肢体、長く垂れる銀の髪は、まるで滝のよう。
「守護者は本来3人。月と」
ふいに向けられた目線に、月は身構えるどころか恐怖を抱いてしまう。
「星と」
それは星も同じことだった。
「そして太陽」
ここまで言い終えて、女はいじらしい笑みを浮かべる。
「一人、足りないわね」
言い終えて、女は再び口の端を吊り上げる。
「太陽の守護者・・・転生後の名を、なんといったかしら」
この女は知っている――。
直感で星はそう悟った。
仲間である自分たちですら知らない、太陽の守護者の正体を。
胸に抱いた疑惑の念からか、背筋に悪寒がはしり、思わず身震いをしてしまう。
星のその姿を見て、女は笑う。
「あなたは勘がよさそうだから…ふふ、怯えなくてもいいのよ。私達の大望を果たした暁には、あんなやつなど生かしておくわけないの。すぐに後を追わせてあげるからね…」
女が指を躍らせると、不可視の得物が星の頭上に振りかざされ、爆音とともに土煙が立ち込める。
「ルイいぃぃっ!!!!」
「あはははは!!もろいねっ守護者なんていってもたかが人間さ!どれだけ足掻こうが勝てるわけがないのよっ。昔も…今も!!・・・・・・・なに!?」
果たして、得物が振りかざされた地に星の姿は跡形もなかった。しかし、それほどの威力があり消し飛ばされたわけではない。
「堕ちたな…守護者も」
腕のうちに気を失った星を抱いていたのは、冷たい視線の先にいる月の、よく知る男であった。
「これぐらいの小者一人倒せず、何を…誰を護れるという」
月は動けなかった。
そればかりか、声も出せなかった。
仲間だ。そう信じてきた。
しかし今、ここに居る「あいつ」は、本当に仲間なのか―――?!
「玲。ずいぶんな物言いじゃないの」
小者呼ばわりされ侮辱された女は、怒りに肩をふるわせ言う。
「目的が違うはずだレミリオ。殺してしまっては意味が無いのだと言っただろう。これ以上は奴の命令を無視した行為だ」
レミリオと呼ばれた女は怒りが頂点に達したのか、顔を朱に染め上げて、身を翻し姿を闇に溶かして消えた。残された月は、星を抱く男を――かつての仲間を、精一杯の眼光で睨みつけた。
今ここで彼と戦闘になって、勝てるみこみは皆無に等しかった。だがそれでも、星だけでも護らなければならない。
それには二つの理由があった。
己の内の感情からくるものと…もう一つ…。
「ルイを…放せ」
かろうじて搾り出した声は、本当に微かなものだったが、男の耳にはしかと届いていた。
「名は、封じたろう。その名を呼ぶ資格は、お前にはないはずだ」
静かな、しかし重みのある声音に、月は妙な感じを抱かずにはいられなかった。
男――太陽の守護者がすでに自分達の仲間ではないことは、先までの行動で明らかだ。
だが、何かがひっかかるのだ。
 そんな月の心情に気付いたかどうかはわからないが、太陽は星をゆっくりと地に降ろした。
太陽がその場を数歩離れるのを見て、月は星にかけよって彼女を呼ぶ。間もなく目を覚ました星は、辺りを一度見回して、そして悟ったようだった。
「…太陽、あなたは」
「王女を目覚めさせろ。それしかもう、道はない」
再び空を覆っていた雲がはれた時には、既にかつての仲間の背中はなかった。








「王女の封印を解きます」
夜は空けようとしていた―――


















ナカガキ。

とてつもなくお久しぶりですね。
途中までははやくに出来ていたんですが、どうも進められませんでした…。
それでもこの話にはかなりの思い入れがありますのでうやむやにだけは…!
なんといってもHP開設当初の目玉商品だったので(マテ)

リメイク前にはなかった守護者達の本名が出てきました。
まだ星だけですが(汗)

感想なんかもらえたりすると第2話もお届けできるかもしれません(早くとかそんなんじゃないのがミソ)






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