Destiny〜長い時間の中で〜    プロローグ








―よく聞いて。そしてどうか、私にはできなかったことを…成し遂げて







突如、世界を襲った終末。
人々はなすすべもなく、定められた運命にただ従うしかなかった。



けれど。



幾許も無く真新しい世界が創生されると共に、現実は薄れ、消え去り…―――



誰も知らない。このことを知らない。



それでも。



知るものは、いる。



運命と言う糸を手繰り寄せ、彼らは再び出会う。
それは何千年という彼らの歴史のうえで、必然であり、その身に、血に刻まれた使命。



誰も知らない。
知ろうとしない。
気づかれることなく、新たなる世界は形を創り、新たなる歴史は物語られる。



だけど。



知っている。
彼らは知っている。
あの日の思い出も、記憶も、
あの時の笑顔も、泣き顔も、
もう二度と戻ってはこないことを。



だから。



闘う。
誰かのため、
何かのため、
そうそれは、彼ら以外の誰も知りえぬ争いの終焉なればこそ、
彼らのためだけであるのかもしれない。



けれど…
…それでも


世界は終わる 終末の刻が訪れれば ――――


だけど…


もう二度と あの日あの時はこない ――――


・・・・・・・・・・・・・だから…












* * * * * * *










カツっ カツっ

教室のある本館と、倉庫などのある別館をつなぐ渡り廊下。
最近は、別館の老朽化に伴い、利用されることが少なくなったが、それでも、別館には古書の豊富な図書倉庫があるため、この渡り廊下を通る者がいなくなったわけではなかった。
図書倉庫には課題研究の資料になるものが多く、夏休みなどの長期休暇中も解放されていて、利用者もそこそこいた。
 紫咲亜湖もその一人だった。
こんな蒸し暑い夏休みに、冷房設備の整っていない図書倉庫まで足を運んだのは、国語科で出された課題研究の宿題のためである。
「う〜ん・・・」
先ほど借りてきた本。それは見事な文字の羅列で、頭がくらくらしそうだった。文系は得意なほうの亜湖だが、これは勘弁してほしい。と思うほどだ。
しかし、亜湖の通うこの高校は完全単位制で、ちょっとした提出ミスで進級が危うくなることだってあるのだ。定期テストの点がいい方とは言えない亜湖にとっては、こういう課題研究などで高い点をとっておかなければならなかった。
「え〜っと・・・・・・・・・きゃっ!」
本を読みながら歩いていたので、前から歩いてくる人に気づかなかった。
亜湖はぶつかった拍子に、しりもちをついて倒れてしまった。
「ご ごめんなさいっ」
体制を立て直し、ぶつかった人の顔を見上げ真っ先に謝る。
が、そこにいるはずの人はどこにも見当たらなかった。忽然と姿を消していたのだ。
不思議に思い辺りを見回すと、いつのまにか亜湖の背後にその人はいた。
しかもその人は、何を気にするでもなく、倒れている亜湖を完全に無視し、スタスタと歩いて行ってしまった。
 短い黒髪の、女性なのか男性なのか、それさえも分からなかった一瞬の出来事。
「?・・・・見かけない人だったなぁ。たぶん・・・」
おかしな日本語ではあるが、まったくもってそのとおり。
なにせはっきり見たのは後姿だけだったのだから。それに今は夏休み。
学校を訪れる者のほとんどが私服で、先程の人も黒い服に黒いズボンといった服装だったのだ。見かけは男性のようだったが、女性のようだったような気もする。短い黒髪の知り合いなら山ほどいる。だから「たぶん」が語尾につくことになったのだ。
暫く悩んでいたが、知ったところでどうしようもないここと。亜湖は思考を中断し、辺りに散乱したカバンの中身を拾い集め、手にもっていた本もカバンの中に入れ、僅かな疑問を残したままその場を去った。








警鐘が鳴り



始まりの扉は開かれる



硝子のように堅くてもろい絆



彼らは、引き寄せられる















†あとがき†


このプロローグはリメイク後のものです。
リメイク前『終わりの刻』だったのものが『終末の刻』になりました。
この後出てきますが『初まりの刻』は『創世の刻』になります。
ほかにも、リメイク前に出てきていた語句がいろいろ変わります。
登場人物の過去話とか加わったり・・・・。
頑張って書き上げますので、お付き合いの程宜しくお願いしますm(_)m

※読み方講座※
紫咲亜湖⇒しざき あこ         終末の刻⇒しゅうまつのこく









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